潜水作業の効率化と安全確保を目的に
「水中バックホウ」を開発
沖縄県那覇市に本社を置く極東建設株式会社は、水中施工
会社として、港湾・漁港などの土木工事を行ってきた。
1971年岡山で創業、1972年の本土復帰で岸壁・防波堤工
事が増加した沖縄へ本社を移転、「極東潜研株式会社」という
旧社名にも表われているように、社員は現在もほぼ全員が潜
水士免許を持つ。
沖縄の海は荒れる。台風に加えて、2月の季節風が引き起こ
す波は、何十トンもある消波ブロックを陸に打ち上げるほど
強い。工事の途中で海が荒れると、時間をかけた石組みは崩
れてしまい、最初からやり直すことになる。作業効率を高めて
施工時間を短くしたい、海が荒れる前に施工完了したいとい
う欲求が強かった。
「当社創業者である故・古松伸茂が、作業効率化と潜水士の安
全性確保のために、水中バックホウの開発を決断したのです」
と、マリン開発部長の上山淳氏は語る。
バックホウとは、建設業界で最も普及している建設機械「油圧
ショベル」の日本語名称である。古松氏は、アタッチメントを取
り替えるだけで、土を掘ったり物を運んだり多様に使える点に
目をつけ、これを水中で動くように作り替えた。
1983年に完成した水中バックホウを与那国島の防波堤基
礎工事に使ったところ、潜水士による人的作業の効率を各段
にあげることができた。水中で使える建機の開発は先例がな
く、容易ではなかった。自然環境に耐え、圧力や防水への工夫
が必要でトライ&エラーを繰り返した。
1995年には、電動油圧式水中バックホウを開発した。当初は
油圧ポンプとそれを動かすエンジンを船上に設置し、船と機
械をホースでつなぐ必要があった。油圧ホースから電気ケー
ブルへ変え施工領域が飛躍的に広がり、水中バックホウの適
用案件も大きく拡大した。
次に、2001年から2010年にかけて、水陸両用バックホウの
開発に注力した。
水陸両用バックホウは、陸、浅瀬から深海までを1本につなげ
なければならない海底ケーブルのトレンチ(溝)掘削、満潮時に
は船が入れない橋の下、干潟などの工事に活用されている。
水中バックホウでは搭載していなかった「エンジン冷却装置」を
搭載することで、水深1.5mより浅い水際でも使えるようにし
た機種である。さらに、駆動部分を船の上で交換できるように
して、1台で水中・水陸両方に対応できる機種も開発した。
そして、2011年7月には、新しい水中作業機および水中作業
方法について、大成建設株式会社、株式会社アクティオ、そし
て極東建設の3社で共同特許を取得した。極東建設はこのプロジェクトで、シャフト式水中掘削機T-iROBO UWの水中掘
削部を製作し、2013年から京都府・天ヶ瀬ダムで行われた工
事の施工も担当した。
シャフト式水中掘削機T-iROBO UWは、超音波画像をモニ
ターで見ながら、オペレータは潜らずに遠隔操縦できるダイ
バーレスの画期的な水中バックホウの派生機械である。船上
に設置された運転席から、水中の無人バックホウを操作する。
視覚情報、音声情報、マシンガイダンスの情報によってオペ
レータは直接潜っている感覚で操作できる。潜水士が潜らな
いというこの施工方法により、安全性が向上し、さらに施工費
用・工期ともに圧縮できた。この画期的なプロジェクトは、開
発段階から施工に至るまでに、4つもの表彰を受けている※。
水中バックホウは、現在、極東建設で約10台、全国の提携施
工会社で約20台が稼働中だ。
※日本エンジニアリング協会のエンジニアリング奨励特別賞、日本建設機械施
工協会の最優秀賞、土木学会の技術開発賞、ダム工学会の技術開発賞の4つ
複雑な機器レイアウトをCADで
設計できるようになり、手戻り激減
水中バックホウ製作は、陸上用バックホウを建機メーカーから
購入することから始まる。これを分解し、利用できる部品は流
用しつつ、独自に開発した部品と組み合わせたりする。水中作
業用の運転席など、一品もので、他に流用できないものは、部
品の製作にも苦労する。また、精密加工は下関の会社へ依頼
するため、待ち時間が発生する。
設計には、土木用2次元CAD「BV-CAD」を使用してきた。
さまざまな機器を搭載するスペースを、入り組んだ形状のな
かで的確にレイアウトするのはむずかしく、図面を見てもわか
らない。そのため結局、現物を機器に搭載して目視確認して
いた。つまり、発注した部品の到着を何週間も待ち、商品が届
いてからレイアウトしていた。
「精密機の部分はこれぐらいの大きさでできあがってくるだろ
うと予想して、筐体を用意して待っていたら、届いた精密機と
筐体が合わなくて四苦八苦したこともあります。納期と手戻
りという2つのロスを小さくするには、設計の3次元化が必須
であると考えました」と上山氏は言う。
量産ではなく1品ものであるからこそ、製作の手戻りを少なく
することがきわめて重要だったのだ。
「3次元CADの選定で最優先したのは、これから入社してくる
若い人が迷うことなく使えるものがいいと感じました。参考ま
でに沖縄高専に問い合わせたら、SOLIDWORKSを教材にし
ているということでしたので、迷わずSOLIDWORKSを導入し
ました。」と上山氏はにこやかに語る。若手を育て、30年余に
わたって培ってきたノウハウを継承していくための道具として
も、SOLIDWORKSは期待されたのだ。
現在は、土木用の2次元CADとSOLIDWORKSの両方を駆使
している。陸上用バックホウの主要部品を分解してスケッチ
行い、2次元CADで概要を描く。少しずつSOLIDWORKSへ
データを取り込んで3次元化する。仕様やレイアウトの検討
は、2次元と3次元の両面で行う。浮力計算、重心・重量バラン
スの確認はSOLIDWORKSの得意とするところだ。
これまでと大きく異なるのは、レイアウトを見定めた後で、部
品を発注できるようになったことだ。また、届いた部品を組み
立てるにあたって、糸満工場では3次元図面を活用している。
「シャフト式水中掘削機T- iROBO UWの開発では、
SOLIDWORKSが大変役に立ちました。ダム再開発の現場では、湖底に水中バックホウを停止しておくことができません。
そのため、船の上からシャフトを旋回させながら下ろして固定
し、シャフトに沿ってバックホウを昇降させるという構造にしま
した。この昇降する内側のフレームと、回転する外部のフレー
ムとの複雑な干渉が、SOLIDWORKSではたちどころにチェッ
クできたのです」と上山氏は説明する。
機器のレイアウトを、CAD上で事前に確認できるように
なったことで、部品が出来上がってくる前に、先行して進め
られる作業領域が格段に増えた。操作性や安全チェックも
SOLIDWORKSで行える。組付部品が届いてからの手戻りが
ほとんど発生しなくなった。