Challenge

タイトな開発スケジュールのなか、電気系設計を
効率化、使用部品の統一、ロスの削減が課題と
なった。従来ツールではこうした課題に対応でき
なかった。

Solution

機械設計で使っているSOLIDWORKSといずれ連携させることを念頭に、SOLIDWORKSElectricalを導入。電気系設計の新しいルールを作り、1人1台環境を整えた。

Results

  • 速さ:作図・リスト作成時間が大幅に短縮
  • 情報量の多さ:製作を行う協力会社へ正確にわかりやすく情報を伝達
  • 不具合激減:細かい実物図を作成できるようになり、図面の精度向上
  • コスト把握:部品属性として「単価」も登録

押し寄せる「リードタイム短縮」の大きな波

埼玉県所沢市に本社を置くマスダックは、創業60年の歴史を
重ねた製菓機械メーカーである。
「当社は『はじめに菓子ありき』をポリシーとして、安全・安心
でおいしいお菓子を適正コストで安定生産できる、お客様に
とって最適な生産システムの提供を心がけています」と、取締
役 機械事業部長の三田修市氏。1974年からは、食品事業も
行っている。自ら製菓工場を建設し、運営するノウハウを積み
重ねることで、機械事業と食品事業の相乗効果を生み出して
きたのだ。
しかし設計を取り巻く環境には、大きな変化の波が押し寄せ
ている。
「最近、コンビニエンスストア向けベンダーの仕事が増加傾向にあります。コンビニエンスストア向けベンダーは、製菓機械
を24時間稼働させるうえに、作る菓子は数週間から数ヶ月単
位で次々に切り替えていくなど、商品ライフサイクルが非常
に短い」と、機械事業部 生産本部 電気設計部 部長の川瀬輝
雄氏は指摘する。
土産物等の菓子生産ラインでも、どのようなものをいつ発売
すれば売れるか、戦略が重視されるようになった。情報収集、
分析、企画、構想に時間をかけるため、設計・製造のリードタイ
ムがどんどん削られているのだ。
従来は1年程度かけていた生産ライン構築を、半分以下の納
期で完了することが求められるようになった。

 

機械系はSOLIDWORKSで
自動設計ツールを開発

機械系設計では、いち早くSOLIDWORKSを導入していた。
2009年、オランダに「マスダックインターナショナル」を設立
し、グローバル展開を開始したのだが、このとき、オランダの
設計者が使っていたのが、SOLIDWORKSだった。日本のマ
スダックでは機械設計にAutoCADを使っていたため、図面
をうまくやりとりできない。そこで、数種類の3次元CAD製品
を比較検討したうえで、2010年、国内でもSOLIDWORKS
を導入した。
「きっかけは図面のやりとりですが、日本でも3次元設計をす
るようになり、特にカバーフレームは、非常に設計しやすくな
りました。また、構想スケッチ、簡略なモデルでの動作シミュ
レーション、強度解析など、要所要所で3次元CADならではの
機能を活用してきました」と、機械事業部 生産本部 技術・管
理室 室長の大舘邦幸氏は語る。
2017年は、さらに改革を一歩進めて、設計プロセス全体を3
次元で一貫させることを目指して、自動設計ツールの構築に
着手し、一部の機種で運用を始めた。
「標準機をベースに、菓子の直径サイズや焼成の列数を変え
るという場合に、必要項目の数値を指定するだけで自動設計
できるツールです」と大舘氏。この自動設計ツールを糸口として、標準機のカスタマイズ案
件で設計改革を定着させた後、ゼロから開発を行う新規受注の案件にも、3次元一貫設計を拡大していく計画である。

 

電気系はSOLIDWORKS Electricalで
設計改革を

リードタイム短縮要求が厳しくなるなかで、設計改革が急務
となったのは、電気系設計も同様である。
「まず2014年、製品開発部隊ごとに配置されていた電気設
計者を集結し、『電気設計部』を創設しました。この組織改革
には、設計ルールや使用する部品を統一して効率を上げた
い、ロスコストをなくしたいという狙いがありました。しかし、
従来から使っていたツールでは、『統一された設計』を推進で
きなかったのです」と川瀬氏。
1998年ごろから、パソコンのWindows化と並行する形
でMicrosoft VISIOを導入し、電気設計に用いてきた。
Microsoft VISIOは親しみやすいが、電気設計専用ツールで
はない。図面やリストの作成に時間がかかるため、最近の「図
記号の整合性がとれた120~130枚の図面を1週間で描き
きらなければならない」というニーズへの対応が厳しくなっ
ていた。
電気設計専用ツールをいくつか比較検討したうえで、最終的
に、機械系設計で利用しているSOLIDWORKSに合わせて、
SOLIDWORKS Electricalを選定した。リードタイムを劇的
に短縮するには、電気系設計の改革だけでなく、この先機械
系設計との連携・連動が必ずや必要になってくると考えたか
らだ。
2014年春、まず3ラインセンスを導入。半年かけて、既存図
面のデータベース登録、新しい設計手順のルール化、マニュ
アル作りを行ったうえで、2014年下期から本格導入を開始し
た。現在は、18ライセンスをそろえて、電気設計者の1人1台
環境を実現している。
川瀬氏らが「SOLIDWORKS Electricalに移行しておいてよ
かった」と痛感したのが、2016年のあるプロジェクトだ。ここ
では「サンド機プロジェクト」と呼んでおく。
サンドクッキーを1分間に60回転で作り上げる生産ラインだ
が、15列並びなので、実際には1分間に900個生産する。速
さと量の要件が非常に厳しく、50軸をモーションコントロー
ラで正確に制御しなければならず、概要設計に相当な時間を
取られてしまった。
「この大規模ラインだと、電気系設計は急いでも2週間かかる
ところですが、SOLIDWORKS Electricalを使って、半分の
1週間で設計を完了させることができました。ハードウェアの
設計時間を短縮でき、その分、プログラムのデバッグに十分
な時間を確保できて、納品後もお客様から信頼性を高く評価
されています」と川瀬氏は語る。

「設計ルールや使用する部品を統一して効率を上げたい、ロスコストをなくしたい。しかし、『統一された設計』という発想も機能もないツールでは、こうした改革は推進できません。お客様が満足できる製品を短いリードタイムでつくり、時代の変化に対応していくには、そういうコンセプトを持って開発された新しいツールが不可欠でした」。

川瀬 輝雄 氏
機械事業部 生産本部 電気設計部 部長

速い、情報量が多い、ロスが減った、
コスト把握の4大メリット

SOLIDWORKS Electricalの導入はマスダックに、「速い」
「情報量が多い」「不具合、ロスが減った」「コストを把握しや
すい」など、複数のメリットをもたらしている。
まず、電気専用コマンド等の機能を活用することで、作図時間
を大幅に短縮できた。端子台図面の自動作成機能も非常に
便利だ。作図スピードが上がるとともに、端子番号と線番を特
定しやすくなり、製造部門から問い合わせが来ても即答でき
るようになったのである。
部品表も抜け・漏れなく自動作成され、これだけで半日~1日
の作業時間短縮ができた。
「A4サイズの図枠に収まるように、記号の表示位置をずらし
たり、線を短くしたりする試行錯誤の作業から解放されまし
た。ラインを維持しながら、大きさや位置だけ変更するといっ
たことが簡単にできます」と、機械事業部 生産本部 電気設計
部 チーフエンジニアの新井克寿氏。
詳細配線図なども、より細かく、多くの情報量を書き込むこ
とができるようになった。部品を100~1000個配置するた
め、以前は部品を記号化してその位置に置くだけだったが、
SOLIDWORKS Electricalなら実物図を描ける。
「実物図ですから『実機を使って配線してみたら、つなぎにく
かった』という不具合が発生しなくなりました」と新井氏。
「書き込める情報量が多い」というのは、さらに大きなメリット
につながっている。
以前は、製作を行う協力会社に電気設計者の意図がうまく伝
わらず、間違った配線で納品されてしまうことがあった。問い
合わせ電話も多かった。ところがSOLIDWORKS Electrical
の「実物図」は、情報が正確で誰でも理解しやすい。
「結果として、製作会社を何社か増やすことができました。製
作会社の数が多ければ、受注のピークをこれまで以上に乗り
切りやすくなります」と川瀬氏は言う。
図面の精度向上、情報量増加などの相乗効果による、ハード
ウェアに起因する電気系設計の不具合発生はほぼゼロになっ
た。
また、情報量のひとつとして、部品属性として「単価」も登録し
ている。したがって、構想図というきわめて初期の段階から、
部品コスト概算を把握できるようになったのである。

 

電気設計3次元化、
さらに機械系との3次元連携へ

リードタイム短縮以外にも、製菓機械業界は、さまざまな時代
ニーズの変化に直面している。
たとえば、現場の人手不足という製造業共通の課題を解決す
るために、IoT活用が注目されている。つまり生産ラインにセ
ンサーを搭載して24時間遠隔監視できる体制づくりである。
欧州では、機械のデザイン性とともに使いやすさを重視する
傾向がある。海外の展示会へ行くと、装置に印象的なロゴが
ずらりと配置されていたり、異機種間でも操作性が統一され
ていたりする。
「IoTもブランド力向上にも、全社統一された設計ポリシー
がカギになります。『エレ/メカ連携』の重要性は今後ますま
す高まっていくはずです」と川瀬氏はしめくくった。