Challenge

渡された図面どおりの部品を作るだけでなく、自ら
設計・開発し、ものづくりまで一貫して行う「研究開
発型の町工場」へ進化して、会社を立て直したい。

Solution

開発部を社内に新設して、宇宙航空・医療の新
規分野に参入した。開発部は、SOLIDWORKSと
SOLIDWORKS Simulationを活用してトライ &
エラーを徹底的に行うことで、手戻りが発生しな
い確実なものづくりを実現。顧客との間で3次元
モデルを共有しながら、コミュニケーション、コラ
ボレーションの効果もあげた。

Results

  • 売上が10年前の3倍に増加
  • 開発から加工までの一貫体制により、単発プロジェクトでも、利益をしっかり確保

1950年の創業以来、由紀精密は一貫して「精密切削加工」に
磨きをかけてきた。
90年代前半には公衆電話の金属部品製造で業績を伸ばし
たが、部品の樹脂化、機構部品の点数減少などの大きな流れ
に、ITバブル崩壊のダメージが加わって、経営状況は急速に
悪化。現在の代表取締役社長である大坪正人氏が入社した
2006年には、存亡の危機にさらされていた。
スイス型自動盤、NC複合旋盤など、生産性の高い加工設備
は有している。それでは何を作れば、会社を立て直すことがで
きるだろうか。
大坪氏は方向性を見いだすため、自社の魅力は何であるか、
取引先顧客にアンケートした。その結果、「高品質」を評価する
回答が圧倒的に多かった。
「『高品質』が強みであるのなら、それをさらに強化し、高品質
への要求が高い業界、たとえば航空宇宙、医療へ参入しよう」
と大坪氏は決断した。
ロケットエンジンの試験装置の設計・製造の受注、旅客機の
部品製造の受注、人工衛星の機構部品製造の受注など、さま
ざまな取り組みを重ねるうちに、ついに由紀精密は、10年前
の3倍の売上をあげるまでに業績回復した。経済産業省発行
の「ものづくり白書2016」に、「自社の強みを活かして成長す
る企業」としてコラム紹介されるなど、日本でも指折りの注目
される企業ともなった。なお、現在の売上の50%以上を、新
規参入の航空宇宙・医療機器が占める。
「2006年に開発部門を社内に設置してから、開発的な思考を
持ち、納期短縮・コストダウン・品質向上のための提案をより
積極的に行うことを目指していました。
部品の図面が書かれる前段階から参加し、図面を描く、ある
いは作図のアドバイスをすることでコストダウンと納期短縮
につながり設計と試作、あるいは実験設備、治工具など付加
価値の高い領域で確実に利益を獲得しつつ仕事を受注でき
ました」と大坪社長は成功のポイントを語る。

 

「トライ & エラー」が得意な
SOLIDWORKSで宇宙航空市場へ参入

「研究開発型の町工場」への転換を支え、「開発部」が社内の
一組織として定着するのを助けてきたのが、3次元CADの
SOLIDWORKSである。
もともと由紀精密にとっては、図面は「客先から提供されるも
の」であり、2次元CADも簡易的なものしか経験がなかった。
2009年ごろから、JAXA(宇宙航空研究開発機構)クラスタノ
ズル、質量10kgの観測用超小型衛星など、宇宙関係の仕事
が増えてきたのに対応するため、SOLIDWORKSを1ライセ
ンス導入。2012年にはさらにSOLIDWORKSを3ライセンス
加え、SOLIDWORKS Simulationも導入した。
「トライ & エラー」が得意な
SOLIDWORKSで宇宙航空市場へ参入
「研究開発型の町工場」への転換を支え、「開発部」が社内の
一組織として定着するのを助けてきたのが、3次元CADの
SOLIDWORKSである。
もともと由紀精密にとっては、図面は「客先から提供されるも
の」であり、2次元CADも簡易的なものしか経験がなかった。
2009年ごろから、JAXA(宇宙航空研究開発機構)クラスタノ
ズル、質量10kgの観測用超小型衛星など、宇宙関係の仕事
が増えてきたのに対応するため、SOLIDWORKSを1ライセ
ンス導入。2012年にはさらにSOLIDWORKSを3ライセンス
加え、SOLIDWORKS Simulationも導入した。

「上流の開発工程から下流の加工工程までを一貫して担うことのできる『研究開発型の町工場』へと進化することを目標に据えて、そのために必要なツールとしてSOLIDWORKSを導入しました。今や開発部は会社の一事業として確実に成果をあげていますが、この成果はSOLIDWORKSと表裏一体であり、切っても切り離せません」。

大坪 正人 氏
代表取締役社長

デザインから加工までのデータ一貫で
微細部品の高精度製造にも成功

SOLIDWORKSは、微細部品製造でも威力を発揮している。
「Tourbillon」(トゥールビヨン)は、機械式時計のしくみの中
でも特に高精度で複雑な機構である。2009年、日本人で初
めてTourbillon制作に成功した独立時計師の浅岡肇氏は、
「美しく、普遍的価値のある腕時計」を目指して、2012年、
由紀精密およびOSGコーポレーションとの三者コラボレー
ションをスタートさせた。ムーブメントはもちろん、文字盤、
針、リュウズ、ケースに至るまで浅岡氏がデザイン・設計し、約
140点の部品のほとんどを由紀精密が削り出しでオリジナル
製造し、OSGコーポレーションが提供する特殊な工具を使っ
て浅岡氏が1人で腕時計を組み上げるプロジェクトである。
「浅岡氏はデザインにRhinocerosを使っています。そのデータをSOLIDWORKSにインポートして、拘束条件を付与しま
した。SOLIDWORKS上ですべての要素が連動してモーショ
ン確認を最後までできて、すごいと思いました。また、浅岡氏
は、『そこの公差は10マイクロメートル』などと口頭で指示さ
れるのですが、後からの設定追加・修正・再定義なども簡単ス
ムーズにできるのは、SOLIDWORKSのすばらしいところで
す」と大坪氏。
さらに加えて、Rhinocerosによるデザインから、SOLIDWORKS
での動作確認・設計修正、2次元図面出図までデータを一貫
させたことで、安心して製造することができた。
と大坪氏は胸を張る。
由紀精密は今後も、「これまでにない革新的なものを作る」
ことを目標に、新規のプロジェクトにチャレンジしていく。
「たとえば医療業界で、『こういう機器があれば、治療できて
命を助けられるのに』という話を聞くことがあります。医療、
宇宙、そして、環境、エネルギー、貧困問題など、適切な機器
がないせいでできないとあきらめていたところを、これまで
にない機器を作り上げて突破したい」と大坪氏は熱を込めて
語る。「高品質な金属精密加工のできる町工場」から進化して、
「企画開発から加工まで一貫して担える研究開発型の町工
場」となるためにSOLIDWORKSを導入した由紀精密。今後も
地道な挑戦を続けて、世の中のためになるものづくりをする
ために、SOLIDWORKSを活用していこうとしている。