Challenge

研究所内での研究装置設計においては、仕様変
更への柔軟な対応に加え、機構設計とプリント
基板設計の連携は不可欠である。従来は機構設
計とプリント基板設計のツール「Altium
Designer®」を個別に使い分けていた。

Solution

以前から使用しているSOLIDWORKS と回路設
計のためのAltiumDesigner®に加えSOLIDWORKS
PCB Connector を新たに導入し、
AltiumDesigner®によるプリント基板設計
と、SOLIDWORKSによる機械設計を連携させ
た開発を行った。

Results

実験の中で、機構部分の機能、構造変更が発
生した時、機構設計に合わせたプリント基板
の再設計がスムーズになり、全体の業務効率
は数倍にも跳ね上がった。

研究者のアイデアを具現化する
実験支援装置の開発部署

愛知県岡崎市にある分子科学研究所は、日本の分子科学研
究、物理と化学の境界領域や、その双方に跨る領域につい
ての重要研究拠点である。と同時に、「大学共同利用機関法
人」として、国内外の研究者のコミュニティとしての役割
も担っている。さまざまな分野、異なる立場の研究者と共
同で討論し、新しい研究分野を開拓していく場、としても
期待されている。
研究所内におけるさまざまな実験、特に研究者たちが新し
い研究をする際に、たとえば今の研究装置では少しスペッ
クが足りない、逆に要らない機能は省きたいなど、研究用
途の装置について細やかな要望に応えて、新しい実験設
備、装置を作り出していくのが、研究所内の「装置開発
室」に求められる役割である。
装置開発室へ依頼や相談に訪れる研究者たちの多くは、自
身の専門分野においてはその最先端の見識を持っている。
しかし機械技術や回路技術について明るいわけではない。
一方で装置開発室のスタッフも装置開発のエキスパートで
はあるが、個々の研究内容そのものについてはやはりすぐ
には理解できない。こうした現場の苦労を装置開発室技術
係長である豊田朋範氏は語る。
「ある開発設計の依頼に対して、たとえば技術面でこの組
み合わせなら、より最適な装置ができるのではということ
を装置開発室が提案します。そして作って、時には修正、
あるいはもっと別な方法でできないかということを繰り返
して検討を重ねていく、このような工程が不可欠です。同
時に、研究者の要望を実現するためには、たとえば電子回
路であったら、マイコンやFPGAなど、特定の1つの分野
だけではなく色々な技術分野を一通り知っておき、複数の
技術を組み合わせたら今回のテーマに対して最適な回路は
できるだろう、という解を出せるようにしておくことが、
常に求められます。」

 

Altium Designer® に加えSOLIDWORKS PCB
Connectorによる連携を開始

装置開発室では、以前から機械設計のグループがSOLIDWORKS
を使用していた。プリント基板設計においては
Altium Designer®を利用して設計を行っていた。しかしこ
こ数年で状況が一変する。「開発案件が激増したのが変革を
余儀なくされたきっかけです」と豊田氏。「ここ数年で開発
依頼案件が単純に2倍、3倍を超える状況に変化しました」
そのため案件の都度、装置や制御回路を新規設計する余裕は
なくなり、基板部分のみの変更や装置、基板を組み替えて使
用する事を前提にした設計など、機械・機構部分と基板設計
の連携に加え、それぞれの設計の流用など、作業の効率化
がもはや不可欠になってきたのである。

「研究者たちの多様なアイデアや、
装置に求められるさまざまな要望を
形にすることが、主要な業務です。
激増した開発件数に対し、作業効率をあげる必要
がありました。加えて、多方面の企業や研究機
関との連携作業も増える中、機械設計の共通言
語とも言えるSOLIDWORKSの活用、Altium
Designer®によるプリント基板設計との緊密な
連携におけるSOLIDWORKS PCB Connector
の併用メリットは非常に大きいと感じています。」

豊田 朋範 氏
装置開発室 技術課 技術係長

SOLIDWORKS とAltium Designer®との連携が
10 倍の作業効率をもたらす

「今まで機械開発グループと電子回路開発のグループの交
流が少なくて苦労をする場合もありました。たとえば回路
開発グループの設計者が不得手な機械設計までも担当し
て、その結果、かえって効率が悪くなるケースも発生して
いたのです」と、装置開発室・技術職員の木村和典氏は語
る。「回路担当が作ったAltium Designer® のデータを
SOLIDWORKS PCB Connectorを介してメカニカルCAD
であるSOLIDWORKS側のデータに落とし込む。3次元化
されたデータを使って、筐体の設計をしていく。回路設計
側も、筐体・機構設計の側も、双方が3次元データ化され
ることで直感的な理解が容易になります。そこで改めて回
路の担当者と確認を行いながら、最終的なコンポーネント
の形を作っていきます」そして、この言わばあわせ込みの
部分を機構設計担当が一貫して作業することで、劇的に効
率が向上したのだ。
「SOLIDWORKS PCB ConnectorによるSOLIDWORKS
とAltium Designer®の連携によって物理的な回路への干
渉をチェックしながらコンポーネントを収めていくことが
できました」豊田氏も改めて強調する。
「メリットはやはり補修、メンテナンスのしやすさにあり
ます。ある部分だけ取り外して入れ替えて、ケーブルを何
本か挿せば次の実験が開始できるという研究者の実験時の
取り回しなども、あらかじめ考慮し設計するというのも非
常に重要だと思っています。」
SOLIDWORKS とAltium Designer®の連携がもたらすメ
リットについて豊田氏は具体的な事例も語る。
「SOLIDWORKS PCB Connector 導入以前も、回路・基
板の設計自体は1週間ぐらいでできました。液晶ディスプ
レイやスイッチ、コネクタの配置、何をどの位置まで前面
に出す必要があるか、これらの配置検討に多くの時間がか
かっていました。
SOLIDWORKS PCB Connector導入後、コネクタやLED
など、このように配置したいという案があるなら、SOLIDWORKS
で先に筐体全体の設計を実現しておき、基板設計
の際、修正意見が出てきたら直ちにSOLIDWORKSに読み
込んで、より最適化する条件を確かめた上で、基板製作が
できるようになりました。ケースの加工を進めておき、実
際に装置にはめ込んで動作を確認することができるように
なり、その結果、機械加工の工程数は少なくとも3分の
1、多いものだと約10分の1にまで削減されました。」

 

電子回路・基板設計の3次元化は不可避
機械設計側は共通化がテーマ

SOLIDWORKS PCB Connectorによる連携によりプリン
ト基板設計を3次元で行えるメリットを豊田氏は強調す
る。「今までのプリント基板設計CADは基本的に2次元で
設計をすることがほとんどで、なおかつ使用する電子部品
も表面実装タイプが主流で高さ方向を考慮する必要性は低
かったのではと考えます。ところが機械CADと連携するた
めには回路設計者の私も、これまでと異なり、3次元で基板
完成イメージを考える必要性が生じました。これは私にと
って大変なカルチャーショックでした。
回路設計を行い、プリント基板を作成したとしても、装置
開発としては途中経過に過ぎません。実際にケース内にプ
リント基板を収めて、研究者が使用できる装置にすること
ではじめて完成といえるのです。プリント基板を作製して
じゃあケースにはめてみようかとした際に、基板が入らな
いという問題が発生していたことが、3次元で設計工程を進
めることで問題箇所を早期に発見し、対処できるようにな
りました。今後他の研究者にもっと幅広く利用してもら
う、あるいはライブラリなどを共通のものを使っていくこ
となどと考えた場合、3次元でものを考えることはもう必
要不可欠なのです。」
また、こうしたソフトウェアの連携のみならず、多くの研
究者や大学、企業などとの共同研究、装置開発においてワ
ークシェアリングを推奨していくべき立場でもある分子科
学研究所では、機械分野の共通言語、プラットフォームと
してSOLIDWORKS の導入を支持している。
「国内外の研究者による装置への要望に対して即座に対応
できるものづくりを目指すことが、今私どもの構想として
課題になっております。そうした場合に、やはり機械分野
にすでに広く普及・浸透しているSOLIDWORKS を利用す
ることで、より効率よく製作できると考えています。」
他の大学や機関との共同開発、ワークシェアリングにおい
て、制作環境やツール、ライブラリなどは共通化して、公
開、共有していきたいと豊田氏は締めくくった。