Challenge

手間のかかる部分改修工事の増加、ベテラン技術
者の減少、国の施策であるi-Constructionの進
展。これら3つの変化に対応することが急務だった。

Solution

SOLIDWORKSのトップダウン設計を活用して、自
動製図を実現した。カットリスト連携で、材料明細
表も自動生成できるようにした。3次元設計データ
は、ウェアラブルカメラとの併用、さらには解析利
用、協力会社とのCAM連携など、i-Construction
が掲げるさまざまな可能性にもつながっていく。

Results

  • 設計の生産性向上。自動製図が適用できる製品は、設計・製図に要する時間が1/2~1/10に大幅短縮
  • 若手設計者の技術力不足をカバーする体制ができた。自動製図で設計ミスが激減するうえ、若手設計者でも3次元画像で全体像をすぐ理解できる
  • 3次元スキャンとの連携、eDrawingsでの3次元画像の共有、シミュレーション、3Dプリンタによる試作など、i-Constructionの先取りが可能に

オリジナリティに富んだ技術力の高さと進取の気概

熊本市に本社を置く開成工業は、水門設備専門の建設会社で
あると同時に、鋼構造物のメーカーでもある。「水の命を大切
に」をテーマに、治水・親水・利水を行う設備・装置に対して、開
発・設計から、製作・据付・保守メンテナンスまで、一貫して取
り組んできた。
同社製品はオリジナリティに富んだ技術力が特長だ。一例が、
陸閘(りっこう)カナフ(商品名:ランドカナフ)である。
陸閘とは、海岸や河川沿いに敷設されている堤防の途中を横
断する通路のために設置されている水門のことだ。通常時は
車両や人の通行のために開いているが、増水時には閉めて
堤防の役割を果たす。開成工業の陸閘カナフは、水位が上が
るとゲートが浮力で上昇して、水門が自動的に閉まる構造に
なっている。人の操作が不要であるうえ、電気などの動力も
不要のエコ設備である。津波・高潮対策に高い効果を発揮す
ると評価され、 2014年、NETIS(国土交通省新技術情報提供
システム)に登録された。
開成工業の客先は、国土交通省、農林水産省などの官公庁、
および地方公共団体が中心である。農水省関東農政局から
は2016年優良工事で表彰され、熊本県からは 2011年から 
2016年まで 6年連続で優良工事表彰を受けていることから
も、その技術力の高さがうかがわれる。
進取の気概も社風であり、 IT活用にも積極的だ。たとえば 
2015年にドローンを導入。現場写真撮影はもちろん、3次元
スキャナを使った測量の検討を進めている。 

 

3次元CADを導入して「i-Construction」を一歩先取り

「最新の水門設備開発に取り組む製造業であると同時に、地
元密着の土木建設会社でもあることが、当社の技術力の源泉
です。設計者は熊本本社と全国の営業所を合わせて合計約 
40人体制ですが、全員が工事の現場監督も担当します」と、
技術部次長兼 IT統括室長である立川貴一氏は胸を張る。
しかし近年、経営環境が大きく変化してきた。
まず、新設工事が減り、部分改修のほうが多くなった。部分改
修は、手間がかかるが利益は小さい。生産性を上げて、収益
性を向上させる必要に迫られてきた。
社内状況も変化している。 50代のベテラン技術者が減り、 
20代の若手が設計の中心を担うようになった。そこで懸念され
るのは技術力の低下だ。作図間違い、手戻りも、なくさなくて
はならない。
国の方針も変化した。建設 CALSから踏み出した、「i-Construction」
の取り組みが 2016年からスタートしている。
設計には、約 20年前から 2次元CADのAutoCADを用いてき
た。建設業界のスタンダードツールであり、建設CALSに即し
たCAD製図基準も整備されているからだ。
しかし i-Constructionは、測量・設計・施工・管理に至る全プ
ロセスにおいて、 ITと3次元情報を最大限に活用して、建設現
場の飛躍的な生産性向上を目指す取り組みである。

「公共インフラの工事が多い当社だからこそ、国の施策を先
取りして今から業務改革を行い、3次元データをはじめとする 
ICTの全面活用ができるノウハウを身につけておかなければ
なりません」と執行役員技術部長の伊東精一氏は語る。 
3つの変化に対応するために、2015年、3次元CADの選
定が始まった。生産性向上と収益性向上、設計品質向上、 
i-Construction対応が目的である。

「SOLIDWORKSにしてよかったこと?すべてです。いままでは、建設CALSがあるから2次元CADしか使えないと思い込んでいました。ところが3次元CADを入れたら、業態そのものが変わろう、次の段階へ進もうと動き出しました。SOLIDWORKSがうみ出したのは『希望』です。3次元のおかげで、建設業界は、可能性に満ちた希望の業界に変わろうとしています」。

立川貴一氏
開成工業株式会社 技術部次長兼 IT統括室長

自動製図システム開発で設計・製図時間を最大 1/10へ大幅短縮

生産性向上という第1の目的を達成するため、 3次元CADに
は、「自動製図の実現」「材料表との連動」という2つの機能を
強く求めた。
「SOLIDWORKSを初めて操作したとき、直感的な操作体系
で使いやすいと思いましたが、それだけなら導入しなかった
でしょう。構想レイアウトを活用したトップダウン設計の機能
に触れて、自動製図が実現できそうだと確信したとき、『これ
だ!』と叫びました。さらに、カットリスト連動による材料明細自
動作成機能も、実務に使えると判断しました」と立川氏。 
2015年10月、SOLIDWORKSを2ライセンス導入した。検
証、マザーモデル製作を経て、自動製図機能を開発。水門と
除塵機という主力 2製品については、6~8割、自動製図でカ
バーできる体制が整った。
自動製図システムは、メンテナンス性を高めるため、 
SOLIDWORKSの基本機能だけで開発した。
「『線を引けば図ができる』から、『骨を描けば立体ができる』
へと発想を転換するところが、自動製図のポイントです。『モ
ノの上にモノを足していく』ではなく、『面にすべての情報を
持たせて、面を動かしていく』のです」と立川氏は言う。
自動製図が大きな成果をあげたのが、除塵機設計だ。
除塵機は、排水機場で使う設備である。排水機場は、支流に溜
まった水をポンプで吸い上げ、本流へ吐き出す設備で、止ま
れば、周囲の田畑や住宅が浸水してしまう。排水ポンプの連
続稼働を守るのが、水と一緒に吸い上げられるゴミを確実に
取り除く除塵機である。

「現場の地形や水量などに対応できるように多数のマザーモ
デルを用意したいところですが、要素を極力整理して、数パ
ターンに絞り込みました」と立川氏。除塵機は構造が複雑で
図面が25~40枚必要だが、自動製図を行えば、ミスのない
設計ができ、図面も自動出図できる。設計・製図時間は最大で 
1/10にまで短縮することができた。

 

ベテランから若手への技術継承でも明らかな効果

自動製図システムが完成し、 2017年4月からは、設計者の
実務利用がスタートする。利用を拡大していくとともに、 
SOLIDWORKSのライセンス数も設計全社員へと増やしてい
く予定だ。
期待される効果の筆頭は、設計の生産性向上、収益性向上で
ある。

「水門でのテスト設計でも 1/2~1/10の時間短縮効果が出
ていますから、生産性は間違いなく向上できます。さらに、製
図の間違いが減少すれば、工場で部材の作り直しをしたりす
る手戻り経費も削減され、収益性が高まります」と立川氏。
ベテランから若手への技術継承でも効果が期待される。

「いままでは、職人気質のベテランが技術を口伝えにしてきま
した。ところが3次元で全体像を把握した若手設計者は、ベテ
ランの言っている意味を理解するのが明らかに速い。マザー
モデルを見れば、最良の設計手順もすぐに習得できます。こ
れまで一人前の設計者になるには 10年かかっていましたが、
大きく短縮できるでしょう」と伊東氏。
製造部門でも 3次元導入を歓迎している。

「いままで、10~40枚もある図面のあちこちを見ながら手拾
いしていた材料明細表が自動出力されるというだけでも大喜
びです。さらに、タブレットと eDrawingsを配布するので、寸
法が記入していないところを計測したり、見たい部位の断面を
自分で確認できるようになると社内でデモをしたら、『早く導
入してほしい』とせかされています」と伊東氏はにっこりする。 
i-Constructionへの対応力も着々と蓄積されつつある。
たとえば、開成工業は、すでにウェアラブルカメラを使い始め
ている。現場にいる若手がウェアラブルカメラで映像を示し
ながら質問すると、デスクにいるベテランが、「もっと左に設置
したほうがいいだろう、そう、そこだ」などとリアルタイム指示
をして効果をあげているが、ここでも 3次元データの連携を
工夫していこうと考えているのだ。
さて、「自動製図の実現」という目標は達成された現在、次の
目標として、自動製図とマザーモデルの「全製品網羅」を目
指す。
解析による製品改良の効率化、SOLIDWORKS Composer
を使った組立手順動画の作成、 3Dプリンタによる試作、最新
のNC工作機械を備えた協力会社との CAMデータ連動など、
現在進行中・検証中の取り組みも数多い。