風の挙動のシミュレーションで設計期間の短縮を実現
石川氏が最も価値を感じたのは、SOLIDWORKS Flow Simulationの機能だと言う。摘採機は、摘採した茶葉を風で吹き飛ばして収穫する仕組みになっているため、設計した機械でどのような風の流れが生まれるのかを検証する必要があった。以前は試作機をつくってから、煙や紙吹雪のようなもので実験して風の流れを可視化。「もう少しこっち側に風を流したい。それにはこの部分の設計を変えてみてはどうか」と試作機を改善し、また実験してと、トライアンドエラーを繰り返しながら設計を行っていた。「SOLIDWORKS Flow Simulationを使うと、設計した機械が作動したときの風の流れも風速の分布も一目で分かります。それをもとにCADで形状を変えて、再びシミュレーションすれば、その状態での風の状態が見える。試作機を作る前に検証することで試作回数が減り、開発期間が短くなりました」
また、実機試験は何度もできるものではない。季節によって葉っぱの柔らかさや水分量が異なり、それによって飛びにくかったり、機械に張り付いてしまったりするからだ。茶摘みの時期の状態の茶葉を、違う時期に用意することは難しいので、少ないテスト回数で終わらせる必要がある。「SOLIDWORKS Flow Simulationの導入で、そういった設計時の焦りや不安も解消されました。また、SOLIDWORKSPDMでデータ管理ができ、チーム間の情報連携ができるようになったことも大きなメリットだと感じています」
「設計者の経験と勘に頼る設計から脱却。若手エンジニアでも活躍できる環境を整えています」
- カワサキ機工株式会社
開発部係長 遠藤立吾 氏
独自のマニュアルづくりで設計業務の標準化に注力
現在は摘採機だけでなく、新規で設計開発を行う図面はすべてSOLIDWORKSで3次元モデルをつくり、2次元出図を行っている。同社の主力ビジネスとなっている製茶ラインの設計を担当する遠藤氏はこう語る。
「複雑形状部品の2次元図面をつくる作業は複雑な計算が必要でかなりの労力を要していました。これが立体的に設計できるようになったことで、設計者の負担軽減につながっています。また摘採機では茶葉を刈り取りした直後に風による回収が必要ですし、製茶機では熱風を使用した乾燥機などの機械が多いため、風速分布や温度分布のシミュレーションは欠かせません。風の動きや温度は目にえないため設計者の経験と勘が重要で、新規の設計は、経験の浅いエンジニアにとって難しい業務になっていました。SOLIDWORKS Flow Simulation導入により、試作機をつくらなくても風の状態をシミュレーションできるようになり、業務効率化だけでなく、若手が活躍できる機会が大幅に広がっています」
遠藤氏はSOLIDWORKSマニュアルをつくることにも注力している。たとえば2次元図面を描くとき、1つの部品の図面をつくるにもアプローチのパターンが複数あり、どの書き方がこの部品にふさわしいか見極めるのも大変だ。自分たちが手探りでやってきたことをマニュアルにして残すことで、新しく入って来た若いエンジニアが早期に育つ環境を整えている。
製造部門とのデータ連携で設計以上の効果も
「カワサキ機工の機械は板金部品が多くを占めており、板金形状も複雑です。SOLIDWORKS導入後は3Dモデル作成時に展開形状も同時に生成されるようにしているため、製造部に板金形状のデータを流し、加工機に取り込めば板を切り出してくれるので、設計以上の効果が出ていると思います」
これまでは未展開の2次元図面を板金班の人たちに渡し、展開形状を別に描いた上で機械に入力し、板を切り出していた。その展開図を描かなくてもよくなったことで製造部門の工数削減につながっている。
「曲げ加工の際の伸びを考慮した展開図になるように展開長補正入力をしてあるため、板金オペレーターが取り込んだデータを使用する加工機に合わせて微調整をするだけで済むので、かなりの時間短縮になっています」。
世界中の人々に、おいしい、安全なお茶を届けたい
嗜好品としてのお茶、機能性飲料としてのお茶、ペットボトル入りの止渇飲料としてのお茶、そして、お菓子やアイスなどの食品原料としてのお茶。お茶の需要が爆発的に広がりを見せる一方で、茶農家においては問題が山積している。デリケートな商品だけに、品質を維持するためには、栽培にも収穫にも管理にも加工にもかなりの手間と時間がかかる。しかし茶業に従事する人は年々減り続け、労働力は圧倒的に不足しているというのが現状だ。
「『製品を通じて顧客の利益を図る』という社是実現のために全力で取り組み続けています」
- カワサキ機工株式会社
代表取締役 川﨑洋助 氏
「製品を通じて顧客の利益を図る、というのが当社の社是です。その実現に向けて私たちは全力で取り組み続けています」と語るのは代表取締役の川﨑氏だ。
「例えば、独自の技術を搭載した当社の摘採機は、収穫葉の品質が高い、雨の日でも収穫できる、乗用型で作業しやすいなど、茶園作業の効率化や省力化、品質向上に貢献。いつ農薬をかけたか、いつ肥料を与えたか、どの高さで摘んだかなど、作業の履歴を管理できる仕組みも提供しています」
さらに、少ない台数で茶園管理がすべてできるよう機械の複合化を進めるなど、顧客が抱える課題を解決するためにあらゆる可能性を追求する姿勢は、創業当時から変わらない。その可能性の追求に欠かせないのが、自社製品の開発スピードと精度をアップさせることだ。SOLIDWORKSの導入&活用により、摘採機の開発プロセスと生産プロセスにおける効率化が実現。性能検証済みの高品質の製品を提供できるようになった。現在は、摘採機だけでなく、主力製品である製茶機の分野でもSOLIDWORKSを活用している。カワサキ機工は今後どうなっていくのか、川﨑氏は次のように語っている。
「日本のお茶は嗜好品としての品質の高さはもちろん、その機能性の豊かさからも世界で注目を浴びています。当社の技術や経験を活かし、世界中の人々においしい、安全なお茶を届けたいですね」