スピード・品質・安全性、すべてが求められるレース用部品の設計・開発
三重県鈴鹿市に本社を構えるモリワキエンジニアリング は、創業45年の歴史を誇る世界的な自動二輪・四輪の部品 メーカーだ。創業以来おもにレース用を中心に高性能部品 の開発・設計、製造、販売などを手掛けてきた。これまでに、 鈴鹿8時間耐久ロードレースに数多く出場。2010年には MotoGP世界選手権のMoto2クラスに同社の自社開発マ シン「MD600」で出場したライダーが総合チャンピオンを獲 得し、同社もマニュファクチャラーズ・ランキングで2位となっ た。2017年には鈴鹿8時間耐久レースに、9年振りに「KYB MORIWAKI MOTUL RACING」として日本人レーサーとと もに復帰参戦したことも記憶に新しい。 レース用バイクの部品というと、「特別なものづくり」をイメー ジするかもしれない。しかし、同社レース部 課長 高橋宏史氏 は、「通常のものづくりと基本的な考え方は変わらない」と話 す。ただし、設計・開発・製造のすべての工程で「ものづくりに 要求されるスピード感がまったく違う」(高橋氏)。 世界選手権に参戦すると約半年間、毎週のようにレースが開 催される。たとえば転倒などで車両が故障したら、次のレー スまでに部品を作り上げなくてはならない。マシンの調子が よくなければ、さまざまな部品の細部の微調整も必要になる。 「設計、開発、製造のすべてにおいて“時間”という制約の中で の勝負が続くのです」(高橋氏)。もちろん、だからといって「スピード優先」で考えれば良いの ではない。「部品ひとつひとつがライダーの命にかかわりま す。品質や安全性も徹底的に考え抜かなくてはなりません」 (高橋氏)。つまり、スピード、品質、安全性のすべてが要求さ れるのだ。
SOLIDWORKSの活用で「 ものづくりのスタイルが変わった」
こうしたものづくりにおける課題を解決するために、同社では およそ10年前に3次元CADを本格的に追加導入した。現在、 同社では、「SOLIDWORKS Premium」と「SOLIDWORKS S t a n d a r d 」をそれぞれ2 ライセンス活用している。 SOLIDWORKS CAD製品は、設計やシミュレーション、コスト 見積、製造性チェック、CAM、環境配慮設計、データ管理に対 応。特に、SOLIDWORKS Premiumは、構造および機構解析、 高度な展開サーフェス、リバースエンジニアリング、電気ケー ブルや配管のルーティング機能を備えているのが特長だ。 同社がSOLIDWORKSの導入を決定したもっとも大きな 理由は、やはり「時間短縮」だ。以前は、マフラーを1本作る 場合でも、手で曲げたり合わせたりして現物と突き合わせ て確認していた。「3次元CADの活用によって、大幅に効率 化できています」(高橋氏)。同社では、時間短縮以外にも SOLIDWORKS製品を導入した効果をさまざまに実感してい る。そのことは、高橋氏の「ものづくりのスタイルが変わりま した」という言葉に示されている。具体的には、3Dの計測器、 3次元CAD、3Dプリンターという、ものづくりにおける「インプットとアウトプット」の機器が揃ったことで、ものづくりにお ける「一連の流れが確立された」のだ。 デジタルで部品を設計する場合には、元の形状を正確に把握 する必要がある。まずは、3D測定器とスキャナーで取り込み、 3次元CADツールの中で確認し、ある程度設計が進んだら 3Dプリンターで出力する。その試作品を、実際にオートバイ に取り付けて詳細を確認し、量産に移行するというサイクル ができあがっていった。 高橋氏が、こうしたものづくりのスタイルの変化を強く意識し たのは、同社が2010年にMotoGP世界選手権のMoto2ク ラスに参戦したときだったという。「SOLIDWORKSで設計し た部品が多くなり、それらを3Dプリンターで次々に出力し、 実際に組み込んで確認するという、トライ&エラーを短いサイ クルで繰り返すことができました。以前は、部品から図面を起 こす手法を用いていましたが、3次元CADで設計したモデル から、ものを作るという流れができました。これは、ものづくり における大きな変革でした」(高橋氏)。 高橋氏によれば、部品とマシンとの相性が合わず、開発をやり 直す時でも、SOLIDWORKSのデータを確認することで、「ものづくりの原点は、やはり現場にあると考えています。 現場を知っている設計者が、 うまく3次元CADを使って設 計するからこそ、多時間で品質も安全性も高い部 品ができるのです。その意味では、3次元CAD も3Dプリンターも現場をよく知る設計者が『ど う活用していくか』がもっとも重要になります。 3次元CADなどのツールを活用する時代だから こそ、ただ使うのではなく、常にアイデアを持っ て使いこなすことが大切になると思っています」 株式会社モリワキエンジニアリング レース部 課長 高橋 宏史氏 の段階に戻ってやり直せばよいのかが明確にわかります。設 計図面を描き起こすところからやり直すのと比べると、スピー ドは段違いです」という。