Challenge

多機種展開を支える「流用設計」をスムーズに行える設計体制をつくり、その効果を、営業、製造、販売店・顧客、海外へと拡大していく。

Solution

SOLIDWORKSとSOLIDWORKS PDMを同時に導入して、設計3次元化と設計データのバージョン管理の徹底を実現。3次元データは、社内プレゼン、営業プロモーションなどにも利用している。さらにSOLIDWORKS Composerを導入して、3次元設計データを、製品付帯資料の作成にも利用する体制をつくった。

Results

  • ミス、ムダがなく、手戻りのない設計」が前進
  • 設計意図を正確に伝達し、幅広い人々の意見を取り込める「3次元コミュニケーション」の実現

スムーズな多機種展開を支えるために設計変革

東京八王子に本拠を置く三幸社は、業務用クリーニングマシンのリーディングカンパニーだ。主要製品は、クリーニング工場・クリーニング店が、洗浄の後の仕上作業で使用するマシンが中心である。特にワイシャツ仕上機は市場シェアが高く、国内約40%、米国でも約35%を獲得している。海外進出は1993年に開始した。現在では、米国、カナダ、ヨーロッパ、中国、韓国、台湾、香港、オーストラリア、ニュージーランドから、中東のサウジアラビアやイスラエルまで納入先が広がった。売上も7割近くを海外が占める。生産拠点も、国内に加え、タイ工場が活躍している。生産形態は、型番製品の見込生産が基本だが、近年はマイナーチェンジが頻繁になり、多機種展開の傾向が強まってきた。原因のひとつは、海外展開が順調に拡大していることだ。たとえばワイシャツは、国によってサイズもデザインも異なるため、仕上機も、ほぼ国別に設計を修正する。また国内でも、より早く仕上げたいとか、若年層向きデザインに対応したいとか、クリーニング店ごとの差別化要求が強まっているため、2014年からカスタマイズ納入を始めた。「15~6年前に比べると機種の数が3倍に増えており、設計作業は煩雑になるばかりです。スムーズな多機種展開を支えるための新しい取り組みが必須となっていました」と玉木氏は語る。

 

3次元設計とPDMの同時導入で
「ミスや手戻りのない設計」を実現

設計の効率を高めるには、「ミス、ムダがなく、手戻りのない設計」を実現しなければならない。その手段として注目したのが3次元化である。
「従来は、ICADSX( 富士通)で2次元設計をしていました。ある日、中途入社した設計者が、前職で使っていたSOLIDWORKSを見せてくれたのですが、まさに“衝撃的”でした」と玉木氏は振り返る。三面図と異なり、誰でもひとめ見ただけで全体像を把握できる。パソコンの中で部品を動かしたり曲げたりして、干渉チェックもできる。試作を作る前に、レバーを握る位置や目の高さなどをイメージできるため、安全性や使いやすさも向上させられるだろう。
さらに大きなインパクトは、SOLIDWORKSと連動する製品データ管理ソリューション「SOLIDWORKS PDM」があり、チーム全体で確実な版管理ができることだった。
「部品加工、塗装、縫製、電気、組立などで、1機種あたり合計2,000枚近い図面が必要で、マイナーチェンジの場合でもその半分以上を描き直します。ファイルサーバで、ディレクトリとファイル名で管理するだけでは、版管理が徹底できず困っていました。CADと連動する図面管理は、欲しくてたまらなかった機能です」と玉木氏。2009年、三幸社はSOLIDWORKSとSOLIDWORKS PDM
を同時に導入して、3次元設計に着手した。「効果は絶大でした。動きがわかる、干渉チェックができる、誰でも見ればわかる、大量の出図がスピーディにできる、検図がラク・・」と玉木氏は早口に列挙する。
特に、整合性のとれたデータを使い、流用設計が正確にできるようになった効果は大きかった。1,000点に及ぶ部品を、漏れなく干渉チェックできるようになったこととあいまって、試作後の作り直し・設計変更の負荷は軽減した。 “ミス、ムダがなく、手戻りのない設計”が、大きく前進したのである。

「『誰でもわかる、読める、正確に伝わる』が、3次元データを活用するメリットです。わたしたちは、その特徴を活かしてまず、ミスや手戻りのない設計を進め、さらにその効果を、営業、製造、販売代理店・顧客、海外へと拡大しています。テクニカルコミュニケーションの質が向上することは、製品の品質向上の手助けになっているのです」。

玉木 久利 氏
設計部 部長

正確な伝達と意見の吸い上げに役立つ
「3次元コミュニケーション」を拡大

3次元データの利用は、コミュニケーションの領域にまで広
がった。
第一歩は社内プレゼンだ。設計初期段階では営業、仕様が固
まってからは製造加工部門へのプレゼンを、すべての開発で
必ず行うというルールを作った。わかりやすい3次元データ/
画像を活用することで、さまざまな意見が寄せられるようにな
り、効果の高い軌道修正につながっている。
販売代理店や顧客向けの営業プロモーションでも、3次元
データを活用するようになった。開発中の製品の特長を説明
するには、3次元データが説得力を発揮する。
さらに2015年には、SOLIDWORKS Composerを導入。
3次元データの利用が、製品付帯の各種資料作成にまで拡大
した。
「たとえばパーツリスト、販売代理店・導入ユーザから交換
部品を注文してもらうためのメンテナンス用部品カタログ
です。いままで海外向けは、英語の説明文をいろいろ工夫
しましたが、伝達ミスが多くかなりの苦労をしていました。
SOLIDWORKS Composerで作った3次元イラストを掲載した
ところ、注文ミスが激減して大助かりです」と玉木氏は言う。
充実したマニュアル、作業手順書、組立資料は、設計者と製造
部門との意思伝達でも威力を発揮している。
「これまでは、製造立ち上げの最初の3日間くらいは、設計者
が工場に張りついて、加工や組立の注意点を直接口頭で伝え
ていました。今では、部品を入れる位置やメッキ部分を色で区
別・強調するなど、注意点が確実に伝わる資料を半日程度で
作れますから、設計者は工場へ行かずに、次の案件に取りか
かることができます」と玉木氏は語る。
タイ工場では、SOLIDWORKSとSOLIDWORKS Composer
を導入し、日本から送られた資料を現場の状況に応じて修正
したり、英語の説明文を加えたりして使っている。調達の都合
で、部品構成が日本工場とは異なる状態になっても、タイ人
の担当者が部品図を修正し、作業手順書まで作り直すため、
55人の現地社員の間に混乱は発生しない。紙の資料ではあ
り得ない、柔軟な対応である。
「SOLIDWORKS Composerは技術者でなくても使いこなせ
るのも魅力です。設計者は、付帯資料作成の手間からかなり
解放されました」と玉木氏。実は、電気系設計者の負荷軽減に
も役立っているのだ。
電気設計には専用の2次元CAD「ACAD-DENKI」を使ってい
るが、電気部品配置図、電気BOX配置図は、SOLIDWORKS Composerの担当者に任せて、電気設計者が作成しなくて済
むようになったという。配置図における配線の長さの計測な
どに、SOLIDWORKS Composerの機能を適用できるのも、
作業負荷軽減に貢献している。

 

双方向コミュニケーションの力は
競争力強化にも貢献

三幸社では現在、11人の設計者が、SOLIDWORKS を8ライ
センス、SOLIDWORKS PDM 9ライセンス、SOLIDWORKS
Composer 2ライセンスをフル活用している。
「製造工程でも、時間短縮やコスト削減の効果が表れていま
す。たとえば、設計データを利用することで、部品製造のため
の金型の設計時間が短縮され、SheetWORKS連携で板金の
CAMデータもスピーディに生成されるようになりました。ま
た、従来は板金溶接で作っていたカバーを、SOLIDWORKS
データを渡してFRP(繊維強化プラスチック)で作れるように
なり、利用者のやけどを防止する効果を高めることもできま
した」と玉木氏は語る。
三幸社は今後も、海外展開の強化、新規市場開拓などを積極
的に行い、さらなる飛躍を期している。3次元データを活用す
ることで、設計者の意図を正しく伝達し、同時に、幅広い人々
の意見を取り込めるようになったことは、同社の大きな強み
だ。設計部門はもとより、製造、営業でも、販売代理店、顧客と
の間でも、さらに海外でも、3次元コミュニケーションの拡大
は、市場競争に打ち勝つための原動力にもなっていくに違い
ない。