スムーズな多機種展開を支えるために設計変革
東京八王子に本拠を置く三幸社は、業務用クリーニングマシンのリーディングカンパニーだ。主要製品は、クリーニング工場・クリーニング店が、洗浄の後の仕上作業で使用するマシンが中心である。特にワイシャツ仕上機は市場シェアが高く、国内約40%、米国でも約35%を獲得している。海外進出は1993年に開始した。現在では、米国、カナダ、ヨーロッパ、中国、韓国、台湾、香港、オーストラリア、ニュージーランドから、中東のサウジアラビアやイスラエルまで納入先が広がった。売上も7割近くを海外が占める。生産拠点も、国内に加え、タイ工場が活躍している。生産形態は、型番製品の見込生産が基本だが、近年はマイナーチェンジが頻繁になり、多機種展開の傾向が強まってきた。原因のひとつは、海外展開が順調に拡大していることだ。たとえばワイシャツは、国によってサイズもデザインも異なるため、仕上機も、ほぼ国別に設計を修正する。また国内でも、より早く仕上げたいとか、若年層向きデザインに対応したいとか、クリーニング店ごとの差別化要求が強まっているため、2014年からカスタマイズ納入を始めた。「15~6年前に比べると機種の数が3倍に増えており、設計作業は煩雑になるばかりです。スムーズな多機種展開を支えるための新しい取り組みが必須となっていました」と玉木氏は語る。
3次元設計とPDMの同時導入で
「ミスや手戻りのない設計」を実現
設計の効率を高めるには、「ミス、ムダがなく、手戻りのない設計」を実現しなければならない。その手段として注目したのが3次元化である。
「従来は、ICADSX( 富士通)で2次元設計をしていました。ある日、中途入社した設計者が、前職で使っていたSOLIDWORKSを見せてくれたのですが、まさに“衝撃的”でした」と玉木氏は振り返る。三面図と異なり、誰でもひとめ見ただけで全体像を把握できる。パソコンの中で部品を動かしたり曲げたりして、干渉チェックもできる。試作を作る前に、レバーを握る位置や目の高さなどをイメージできるため、安全性や使いやすさも向上させられるだろう。
さらに大きなインパクトは、SOLIDWORKSと連動する製品データ管理ソリューション「SOLIDWORKS PDM」があり、チーム全体で確実な版管理ができることだった。
「部品加工、塗装、縫製、電気、組立などで、1機種あたり合計2,000枚近い図面が必要で、マイナーチェンジの場合でもその半分以上を描き直します。ファイルサーバで、ディレクトリとファイル名で管理するだけでは、版管理が徹底できず困っていました。CADと連動する図面管理は、欲しくてたまらなかった機能です」と玉木氏。2009年、三幸社はSOLIDWORKSとSOLIDWORKS PDM
を同時に導入して、3次元設計に着手した。「効果は絶大でした。動きがわかる、干渉チェックができる、誰でも見ればわかる、大量の出図がスピーディにできる、検図がラク・・」と玉木氏は早口に列挙する。
特に、整合性のとれたデータを使い、流用設計が正確にできるようになった効果は大きかった。1,000点に及ぶ部品を、漏れなく干渉チェックできるようになったこととあいまって、試作後の作り直し・設計変更の負荷は軽減した。 “ミス、ムダがなく、手戻りのない設計”が、大きく前進したのである。