Challenge

「削りながら考え、図面修正を繰り返す」という開発・試作プロセスの効率化。設計情報を、試作業者、金型業者へ、もっと正確・確実に伝達したい。

Solution

開発・試作を効率化するため、SOLIDWORKSと、3D切削試作機、3Dプリンタ、CAMソフトを導入。設計品質向上には、SOLIDWORKS Simulationも活用している。さらに、SOLIDWORKS Composer、SOLIDWORKS EnterprisePDM、3Dスキャナを組み合わせて、部品表データベースを作成中。

Results

  • 開発・試作プロセスが大幅スピードアップ
  • ステークホルダー間で部品表情報を共有して利便性向上、ブランドイメージもアップ

釣具メーカーの第一精工株式会社では、SOLIDWORKSの最大の魅力は、自由度が高く、「考えながら作る」ことができる点だと捉えている。さらに加えて、3次元データを中軸に据え、3D切削試作機、3Dプリンタ、3Dスキャナ等を駆使しながら変革を進めた結果、「開発・試作の大幅な効率化」と「部品表整備と情報の一元化」という大きな成果を手に入れることに成功した。

3D切削試作機と3Dプリンタで試作プロセスを大幅スピードアップ

大阪市東成区に本拠を置く第一精工は、釣りで使う便利グッズのメーカーである。
日本の釣りは、磯釣り、船釣り、渓流釣りなど、世界に類を見ないほど多種多様だ。便利グッズも多彩であり、第一精工の製品は1000アイテム以上にのぼる。しかも毎年約30アイテムずつ、新製品を開発している。
「男の遊び道具ですから、持っていてワクワクするようなものでないといけません。デザイン性と企画力が強く求められます」と、開発・設計を一手に担ってきた代表取締役の木田久雄氏は語る。
「作りながら考え、考えながら作る」のが、木田社長の設計スタイルだ。
自らフライス旋盤を操作し、削りながら新製品のアイデアを練り、油まみれの手でドラフタに向かって図面を描き、また、削り直しと図面修正を繰り返してきた。作業効率を高めるため、2000年ごろに2次元CADを導入したが、「ものの形は2次元では描ききれない」(木田社長)ため、革新には結びつかなかった。ついに2007年、3次元CADのSOLIDWORKSを1ライセンスと、ローランドの3D切削試作機を導入して、開発・試作プロセスの改革に乗り出した。
「考えながら削る作業と図面修正は、パソコンの中でスピーディかつ自在に繰り返せるようになりました」と木田社長。また、3D切削試作機は、SOLIDWORKSデータを取り込んで動かせるため、汎用フライス旋盤を手で操作するよりもはるかに効率が良い。しかも、設計データを試作業者や金型業者へ渡せば、精度の高い本番試作や製品部品が納品されるようになった。
「ただし、スピードアップ以上に大事なことは、創造力を発揮して、頭の中のイメージに近いものをすばやく作れるようになったことです。『考えながら作る』ことができるのが、SOLIDWORKSの最大の魅力」と木田社長は強調する。成果をさらに拡大するために、2013年にはアクリル樹脂対応の3Dプリンタ、2015年にはMastercamを導入した。

3Dプリンタは、試作のスピードアップに大きく貢献した。切削機では3日かかっていたものが、数時間で作れるようになった。
また 、切削用データ生成には職人技が必要だったが。
SOLIDWORKSと連携するCAMソフトを導入したことで、設計と切削とを同時進行で細かく変更できるようになった。
「切削の進行状況をじっと見ていて、思ったのと違うところが発生すると、その場でCAMをいじって、おかしい部分だけ数ミリ削る指示をして、切削をまた継続するといった運用をしています」と木田社長。
SOLIDWORKS、3D切削試作機、3Dプリンタ、CAMソフトを組み合わせて利用することで、試作の効率化が進み、試作内製の領域も広がったのである。試作段階で品質を向上させるためには、SOLIDWORKSSimulationも活用している。
「現段階では、負荷が集中するのがどの部分であるかを可視化したうえで、応力を分散する対応をしています。今後は、壊れるのを防ぐには肉厚を何ミリにすればいいのか、問題点を正確に把握するところまで、シミュレーションを活用していきたい」と木田社長は語る。

「3次元データがあるから、ものが作れる、プロモーションができる、部品の管理もできる、つまり、設計データが資産になったのです。しかしそれ以上に大事なのは、創造力を発揮して、頭の中のイメージに近いものを、すばやく作れるようになったこと。本当は、『考えながら作る』ことができることこそが、SOLIDWORKSの最大の魅力だと思っています」。

木田 久雄 氏
第一精工株式会社 代表取締役

3Dスキャナ、Composer、EPDMを組み合わせて部品表を作成

2015年から取り組んでいる新たな課題が、部品表作成であ
る。
第一精工の製品は、釣具問屋を経由して、全国の釣具店・ス
ポーツ用品店・ホームセンターなどの小売店で販売されてい
るが、これを購入したエンドユーザーが、修理や交換をしなが
ら長く使うために、部品だけを欲しいと言ってくるケースが増
えた。しかし、エンドユーザー、小売店、釣具問屋のいずれも
が、どの製品のどの部品であるかを正確に特定し、伝達する
のに苦労している。
そこで第一精工は、部品注文が行われる可能性がある約500
アイテムの製品について部品展開図と部品表を作成し、釣具
問屋・小売店・エンドユーザーへ公開して情報共有するととも
に、社内でも情報の一元管理を徹底しようと考えた。
部品表作成に用いる道具は、3Dスキャナ、SOLIDWORKS
Composer(以下、Composer)、SOLIDWORKS EnterprisePDM
(以下、EPDM)である、
「SOLIDWORKS導入の2007年より前の製品は、3次元の設
計データがありません。そこで3Dスキャナで製品実物の立
体寸法を読み取り、計測データをSOLIDWORKSに取り込ん
だ後、Composerで部品展開図を作成しました」と常務取締
役の木田光彦氏。
3Dスキャナによる読み取りと部品展開図作成は、予想以上に
すばやく実行でき、約300製品を2~3カ月で仕上げることが
できた。
次に、2007年以降のSOLIDWORKSデータもComposerを
使って部品展開図を作り、部品表を作成した。
「現在は、全製品にJANコードとバーコードを付与し、部品番
号の整合性をとりながら、EPDMに登録しているところです。
素材、仕入先、原価など、細かい属性情報まで入力するのでと
ても大変な作業ですが、完成すれば、設計データのバージョ
ン管理も徹底でき、情報セキュリティも強化できるなど、効果
は計り知れないほど大きい」と、EPDM登録作業を担当して
いる木田常務は意欲的に語る。

 

3次元データを中軸にプロセス改革、情報一元管理、さらに情報共有へ

第一精工は、3次元データを中軸に据えて、開発・試作プロセ
ス改革、情報の一元管理と展開してきた。3次元化したこと
で、設計データが会社の資産となり、再利用の可能性が大き
く広がったのだ。

次の目標は、設計・試作を「個人の職人技」に閉じ込めてしまう
ことなく、社員全員が設計・試作の状況を把握して協力できる
ようにする「業務の一般化・標準化」である。これを実現するた
めに、SOLIDWORKSやSimulationを使いこなせる人材も
増やしていく。

また、設計・試作はSOLIDWORKSを基盤に効率化してきた
が、今後は、EPDMを中軸に据えて、販売・生産・在庫のデータ
ベース一元化、全社業務の効率化へと、プロセス変革を拡大
していく計画である。