Challenge

自由曲面を扱うにはハイエンド3次元CADが不可
欠だが、ミッドレンジ3次元および2次元CADなど
の設計ツールが混在していたために、設計とその
後工程の効率化を課題としていた。

Solution

ハイエンド/ミッドレンジCADを用途によって使
い分ける「ハイブリッド運用」を決断。設計ツール
をコストパフォーマンスの高いSOLIDWORKSに
統一し、SOLIDWORKSでは対応できない機能
のみ、CATIAで補完する環境を整えた。同時に、
SOLIDWORKS PDM Professionalを導入し
データ管理を確立し、部品の共通化・規格化も推
し進めた。

Results

  • ツールの統一、設計および運用ルールの見直しにより、2014年前半の設計工数と比較し「2割減」を達成
  • 加工指示の重複作業がなくなり、CAMなど後工程の工数が削減
  • ハイエンド3次元CADのみを使用する場合と比較し、導入およびランニングコストともに6割削減し、統一環境を整備

美しい自由曲面づくりを担うヘミング設備設計環境の統一・整備が急務

高津製作所は、トヨタ自動車の Tier1サプライヤーである。
ドア、ボンネット、トランクリッドなど、「ボディシェル」と呼ばれ
る部位の生産設備・生産ラインを開発・設計・製作し、創業か
ら90年を重ねている。主力製品は、プレス金型、汎用設備(含
む,ヘミング設備・溶接設備)。

ヘミングとは、金属板の端を折り曲げてかしめ、外板部品と内
板部品をアセンブリする工程であり、ボディシェル成形には欠
かせない。プレス型ヘミング機が登場して以来、様々な技術
革新が行われてきたが、高津製作所は、トヨタ自動車との共
同開発によって 2000年にコンパクトなテーブルトップ型ヘ
ミング機の開発に成功。さらに 2010年に汎用性、コンパクト
性、クリーン性を高めたローラーヘミング機を開発した。現在
までにトヨタ自動車技術開発賞を 6度受賞するなど、オリジナ
ルな技術力の高さで世界に知られる。

「自動車ボディシェルの製造ラインで、『曲げる』ヘミング工程
が一番重要と考えています。車の見栄えはこの曲がり具合で
決定づけられます。私たちは、デザイン性の高い車の『顔』を
作っていると自負しています。」とW事業部ヘム設計課課長
の村田浩一氏は語る。
高津製作所は、外板・内板部品のプレスから、溶接、ヘミング
でのシェル成形まで、一貫して社内製作できるのが強みだ。
また、お客様の課題を解決するソリューション力を発揮し、自
動車メーカーと一体となって、斬新な生産システムを共同開
発してきた「システム・サプライヤー」でもある。
トヨタ自動車のローラーヘミング機、テーブルトップヘミング
機100%、およびプレス型のヘミング機も約 70%が高津製
作所の製品。世界中の生産ラインで活躍している。
プレスタイプのヘミング機を例にすると、プレス型の要素を
持つ「ヘム型部」と、ベルトコンベアなどの設備の要素を持つ
「搬送部」とで構成される。「ヘム型部」は、製品形状の複雑な
曲面を忠実に再現する必要があり、その設計には自由曲面を
扱うハイエンド 3次元CADが欠かせない。
ヘム設計課ではこれまで必要な設計ツールをそのつど導入
していた。このため 2013年時点で、 4種類のCADが混在して
いた。
ヘム設計課では CATIAのライセンスも備えていたがほぼ
データ変換用として使用しており、詳細設計の主力は、ハイエ
ンド3次元CAD。ほかに、ミッドレンジ 3次元および 2次元CAD
も活用していた。
しかし複数の CADが混在していると、データの互換がなく、
応受援してもデータ変換の手数が多く、設計修正にも時間が
かかる。データ管理が徹底できないため、ミスも発生しやす
い。後工程での加工データ作成にも多大な手間がかかって
いた。
さらにそこへ、主力にしていたハイエンド 3次元CADが開発
中止・保守終了と決まった。
ヘム設計課は、設計環境を根本的に作り直す大きな転換点に
直面したのである。

「デザイン性が高く、美しい自由曲面を追求する自動車ボディシェルの製造ラインで、ハイエンド3次元CADとミッドレンジ3次元CADを組み合わせる設計のやり方は、まだ挑戦を始めた段階だと思っています。SOLIDWORKSへの要望もたくさんあります。わたしたち自身も、さらに工夫し、試行錯誤を続け、工数削減効果の高い設計手法を確立していきたい」。

村田浩一氏
株式会社高津製作所 W事業部ヘム設計課課長

ハイエンド/ミッドレンジ CADの「ハイブリッド運用」を決断

設計環境を刷新するにあたって、狙いは 3つあった。「設計工
数削減」、「後工程の工数削減」そして「導入コストの抑制」である。
「全て CATIAで統一すれば、後工程用データ変換の必要がな
く、CAM連携も確実です。しかし自社にとっては運用コス
トが高すぎ、納得できる投資対効果を試算できませんでし
た」と村田氏。
行き着いた解決策は、設計ツールの統一にはミッドレンジ 
3次元CADを採用し、ミッドレンジでは対応できない複雑な曲面
などは、すでに持っている CATIAを補助ツールとして使うこ
と、つまり、「ハイエンド CADおよびミッドレンジ CADを用途に
よって使い分けるハイブリッド運用」であった。
「検証を通して『ルールを明確に定めて運用すれば、ハイブ
リッドであっても工数を増やすことなしに、設計・加工の流れ
を一本化できる』手ごたえを感じました」と村田氏は当時を振
り返る。
統一ツールにするミッドレンジ3次元 CADとしては、 
SOLIDWORKSを選定した。

「同じダッソー・システムズ・グループの製品で、 CATIAと連携
しやすくなるであろうという将来性を評価しました。完全連携
にはまだ時間がかかると思いますが、可能性は十分にあると
思っています。他のミッドレンジCADではダイレクト連携の可
能性はゼロです。また、SOLIDWORKSは、CATIAと比較して
しまえば機能に制約があり、正直なところストレスを感じる部
分もあります。しかし操作性がシンプルで使いやすいと評価
をし2014年末、導入の後押しをしました」と、システム事業部
システム企画課課長の飯田修右氏は語る。
製品データ管理も最初から導入し、新しく策定する設計ルー
ル・運用ルールに組み込んでおくべきだという判断により、 
SOLIDWORKS PDM Professional(以下、PDM)も導入した。


「設計工数2割減」を達成、 2年後に「工数半減」を目指す

当初、ヘム設計課で、 SOLIDWORKSとPDMを導入開始。そ
の後、プレス設計の部門も 2015年末に導入。両部門でそれ
ぞれ、ハイエンドCADおよびミッドレンジ CADを使い分けて
効率よい設計を実現するためにはさまざまな工夫を重ねて
いる。

「CATIAとSOLIDWORKSの位置づけは 2通りの案を立てて
詳細を詰めて、PDMでの部品管理が的確にできる案を選択
しました。その位置づけに沿ってCATIAで行う作業を具体的
に区分けし、設計ルール、運用ルールを作りました」と、 W事業
部ヘム設計課グループリーダーの加藤久美子氏。長年にわ
たって社内でブラッシュアップしてきた「図面基準」を廃して、
3次元データの中に加工情報を埋め込む「データ基準」を
新たに策定する苦労もあった。
こうした試行錯誤の成果として、設計工数削減の成功例がう
まれた。

「ヘミング機の特定モデルの例ですが、 2014年前半の設計
工数を 100とすると、 SOLIDWORKS導入直後の2014年後
半は135に増えましたが、 2016年後半には 80に落ち着きま
した。設計環境が統一され、設計の流れが 1つに統一されたこ
とで、『設計工数2割減』の効果が出ました。」と加藤氏。「もと
もとの100が、かかり過ぎていた感もありますが、この結果は
社内でも評価をしています」と、村田氏。 2018年には 50、つ
まり当初の「設計工数半減」を大きな目標として今後も工夫を
加えて、活動を継続する。 
PDMによるバージョン管理、部品ライブラリ整備も、設計工
数削減に貢献している。
「設計手順も履歴も共通としたため、データ構成が理解しや
すい、再利用しやすい、検図しやすい。みんなが共通部品を
積極的に利用しますし、ピーク時にはグループ設計へすばや
く移行します。担当者がいなければ、どれが最新データであ
るかを確認することさえできなかった従来体制とは、大違い
です」と飯田氏。部品の動作付けには、SOLIDWORKSのコン
フィギュレーション機能も役立っているという。
もうひとつの狙いである「後工程での工数削減」にも明らかに
効果が出ている。
たとえば曲面加工は、従来は、設計段階での曲面作成とは別
に、加工用の曲面をゼロから作成していた。現在は、 CATIAで
作った「原型」をCAMまで継承するため、フィレット掛けや逃が
し形状作り込みに設計データを利用でき、二度手間・重複作
業を排除できた。
構造加工のほうは、従来作業者が紙図面に書き込んだ指示を
見ながら、加工属性を 1つずつ CAMへ入力していた。現在は、 
SOLIDWORKSで色づけしておいた加工指示を CAMに取り
込み、加工属性の入力作業は最小限の工数となった。
しかも、こうした効果は、導入コストを抑制しつつ達成するこ
とができた。 
CADとPDMをCATIA製品でそろえた場合と比較し、
SOLIDWORKS環境は初期投資 6割減、年間ランニングコスト
も6割減、半分以下の低コストで整備・維持できたのである。
ヘム設計課における「ハイブリッド設計環境」整備の取り組み
は、これからも続いていく。
次の段階では、標準化・規格化の範囲を、すべての製品、すべ
ての設備タイプ、すべての部品へと広げていき、工数やコスト
「半減」効果を徐々に拡大していくのが目標である。